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山口地方裁判所下関支部 昭和61年(わ)161号 判決 1987年1月14日

主文

被告人を懲役一一年及び罰金一五〇万円に処する。

未決勾留日数中一七〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある覚せい剤四包(昭和六一年押第三八号の一の一及び二並びに同押号の二の一及び二)を没収する。

被告人から金二〇〇万円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  韓国籍貨物船「第三錦陽号」(総トン数八五八・四五トン)の通信長である甲及び通称乙と共謀のうえ、営利の目的で、昭和六一年五月八日午後二時過ぎ頃、大阪市住之江区南港中八丁目四番一三号大阪港ライナー埠頭L三岸壁に接岸中の右「第三錦陽号」から、韓国浦項港より同船内に隠匿、積載してきたフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶粉末約五キログラム(押収してある覚せい剤四包(昭和六一年押第三八号の一の一及び二並びに同号の二の一及び二)はその一部)を、前記甲においてその身体に巻き付け、密かにこれを携帯して上陸し、指定保税地域である同岸壁上に陸揚げしたうえ、同所から指定保税地域外である同岸壁南側路上に駐車中の被告人運転にかかる普通乗用自動車内に持ち込んで本邦に引き取り、もつて覚せい剤を輸入するとともに、税関長の許可を受けないで貨物を輸入し

第二  法定の除外事由がないのに、営利の目的で、

一  前同日午後六時過ぎ頃、広島市南区大須賀町一四番九号株式会社ホテルニューヒロデン五四一五号室において、丙に対し、前同様の覚せい剤結晶粉末約一キログラムを代金二五〇万円の約束で譲り渡し

二  前同日午後八時四〇分頃、山口県下関市大字秋根字吉近一一〇番地日本国有鉄道新下関駅構内において、前同様の覚せい剤結晶粉末三九五三・九グラム(昭和六一年押第三八号の一の一及び二並びに同号の二の一及び二はその鑑定残量)を所持したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為のうち、営利目的の覚せい剤輸入の点は刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条二項、一項一号、一三条に、無許可輸入の点は刑法六〇条、関税一一一条一項に、判示第二の一の所為は覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項二号、一七条三項に、判示第二の二の所為は同法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項に各該当するところ、判示第一の営利目的の覚せい剤輸入とその無許可輸入は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い営利目的による覚せい剤輸入罪の刑で処断することとし、情状により各所定刑中いずれも有期懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、有期懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一一年及び罰金一五〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一七〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、押収してある覚せい剤四包(昭和六一年押第三八号の一の一及び二並びに同号の二の一及び二)は、いずれも判示第一及び同第二の二の覚せい剤取締法違反の罪に係る覚せい剤で、かつ、判示第一の関税法違反の罪に係る貨物であつて、犯人たる被告人の所持するものであるから、覚せい剤取締法四一条の六本文及び関税法一一八条一項本文により、それぞれ被告人からこれを没収し、判示第一の犯行により被告人が無許可輸入した覚せい剤約五キログラムのうち、右に没収した分を除く残余の約一キログラムは同法一一一条一項の犯罪に係る貨物で同法一一八条一項に規定されている輸入制限貨物等に該当し没収すべきものであるが、既に他に譲渡してこれを没収することができないので、同条二項によりその価額二〇〇万円(関係各証拠によれば、被告人は、通称Zから、一キログラム当り最低金二〇〇万円の価格で売却するように依頼され本件覚せい剤約五キログラムを密輸入して入手し、そのうちの約一キログラムを判示第二の一のとおり、右価格の上に自らの利益を見込んだ金二五〇万円の約束で第三者に譲り渡したものの、実際にはそのうちの金三〇万円の支払いを受けただけで、その直後に被告人が逮捕されるなどしたため、現実には右代金残額の清算がなされる可能性はほとんどない事情が窺われ、かかる事情からすれば、被告人として本件覚せい剤を一キログラム当り金二〇〇万円の仕入価格で入手したものと同視できる訳であるから、少なくとも右価格をもつて、「犯罪が行なわれた時の価格に相当する金額」と解するのが相当である。)を被告人から追徴することとする。

(量刑の事情)<省略>

(裁判長裁判官藤戸憲二 裁判官前原捷一郎 裁判官神山隆一)

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